エヴォの腰上を開けたとき、シンプルには終わらなかった話 / 1995MY FLSTC

そうですね、結論からお伝えすれば
当初の予定では平穏に腰上のオーバーホールを済ませるハズでした

 
1995年式のHERITAGE SOFTAIL CLASSIC (FLSTC)の案件
 
一般的なヘリテイジの装いとはかけ離れてますが他店様にてカスタムされた状態でのご入庫
 
走行中にトラブルが生じてしまい、レッカーされて運び込まれてきました
 

 
 
 
 
 

当初の見込み通り発電系のトラブルが原因 ステーターコイルの短絡はテスターで確認
 
 

焦げたコイルを確認。ここで短絡してしまうと発電されたものがレギュレーターへ行かないため、発電不良となる
 
 

レギュレーターのコネクターもよろしくありません
 
 

ステーターコイルと、レギュレーター共に入れ替えてプライマリーを閉じる
 
 

次、ババっとエンジン腰上を開け確認。なぜ腰上を開けたのかという、そもそもは、オイルが漏れていたから。
 
ここでオイル漏れていたのはシリンダーベースガスケットから。エヴォ以降、塑性域締め付け法に変わったシリンダーヘッドから、エンジンが温まってから漏れるような症状ならほぼ100%シリンダースタッドと言ってもいい。
 
何度かエンジンを開けた経験がある過走行のツインカムTC96でも同様の経験をしたことがある。ガスケット変えて、定評のあるガスケットを用いているにも関わらず、変えて間もなく漏れる…再度チャンスを貰い、エンジン開けていく時に….気づいた。これはスタッドだ、と。以降、弊社で規定ラインを設け、規定を超える場合は変えるようにしています。
 
今回も、もちろん変えましたが、使うのはARP製のスタッドボルトね。ARP製のボルトは組み付ける人ならわかる、ネジの硬い気持ちが確かな手応えで伝わる。
 
 

話をピストンに戻しましょう。ピストン交換予定でエンジンを分解していたが、ピストンは純正のオーバーサイズピストンに変えられ1サイズオーバーとなっており、用いられていたガスケットからも、そう遠くない過去に開けられていますね。
 
ピストン周りはとても綺麗で状態確認をし、純正のピストンをそのまま組み直すプランに変更。もちろんピストンリングは再利用せず替えますけどね。
 
 
と、ここまでは予定調和だった。
 
 


バルブ研磨とバルブステムエンド平面研磨も行い。
 
 

シートカット前の状態を確認ね
 
 

グリーンラインには到達しません(バルブスプリングなしの状態)
 
 

じゃ、次はシートカットね、と移ろうとしていた時に、気づいたこと。鋭い人ならこの写真見ただけで気づくはず。
 
 

シートカットされた痕跡がある。痕跡が悪いのではなく、段差が結構あるので規定値超えてないかな、と疑った。
 
 

やっぱりね。超えてる。アレがついてるなら多少逃げれるが付いてないからなぁ…
 
 

シートリング在庫探ったらありました。お客様にお伝えし交換となりましたが、この後困難にあう。
 
 
一般的にシートリングは既存のバルブを用い、それをTIG溶接して抜き取るのが常套手段とされていますし、過去、私の上司にあたる人からそのように習い、それで上手くいっていました。
 
適当な廃棄寸前なバルブを用いて溶接するも、それでは全く歯がたたない。溶接したところからモゲてしまい、シートリングの奥から全く持ち上がってこない。全く抜けてこない強固な下顎の親知らず状態。
 
まあ、これは有り体に話すと私は溶接が上手ではないこともある。むしろ自信満々に下手くそだ。(きっぱり)
 
に〜….しても、こんなに全く抜けないのは初。
 
一回しくじってしまうと、抜くのに用いるバルブは使うことができない状態になるので抜き専用のバルブを一個消失。これまた崖っぷちに一歩近づいたわけで。んなにバルブ、沢山持ってません。
 
 
さぁてどうしよう。どうしよう。(内心ね)
 
 
シートリングとシリンダーヘッドとのクリアランスは100分のなんミリ代の数値が求められる場所です。失敗なんて許されない場所です。シートリング抜けて落ちちゃいますよ。自分で自分を追い込むから、脇汗半端ない。
 
 

昨年導入した設備で、特殊カッターがあることを思い出しました。
 
 
 
ユーコーコーポレーションの関谷社長にホットライン。
 
偶然にタイミングよく入荷があるものをすぐ送って貰いました。
 
この垂直に切れるカッターでシートリングを削る作戦に切り替える。
 
 
このカッターはVGX-21を用いてシートリングの外径コンマ1ミリ(0.1mm)残して削り取ることで、シートリングが張力を失ってクルクル回りだし取り出せますよ、と言うもの。
 
やってみたら、このハーレーのヘッドでは切削に時間かかる上に、シートリングがシリンダーヘッド側にバッチリ密着していて薄皮一枚でもバリバリに剥がすような状態。(今回のハーレーのヘッドではね)
 
薄皮一枚でもかなり手強いのをみて、「まじか、、orz」と。
 
そして、溶接した後でカットしてるので不均等な打コンをカッターがゴンゴンと跨いだことで新品の刃物がかなり痛手を負っている。
 
これでは残す3つあるシートリングで精密な切削など出来やしない。
 
うーーむ!!! 
 

ぴーんち

 
 
(ちなみにこの時のことはあまりに余裕がなくて写真になど撮ってやしない)
 
 
  
ここで仕事中あまり吸わないタバコを咥え一服し、冷静に考えた。
 
1に、溶接したが、上部だけでもげたこと
 
2に、カッター用い薄皮一枚にしてもバリバリに剥がすような強固な状態だったこと
 
この二つを踏まえ再度作戦変更。
  
 
溶接下手くそで、傷んだ刃物でもできる方法。
 
要するに、「カッターでコンマ何ミリ台の精度が求められず、かつ、手強いシートリングを確実に効率よく取れる方法」を考えてみた。
 
 

それがこの方法。
 
 
説明なしには分かりづらいものなので解説。
 
 

まず、シートリングを切削加工
 
 

従来溶接に用いていたバルブは傘の外径をグラインダーで大幅に削りシートリングよりも下へセッティング。
 
シートリングよりもはるか下に据え置くことができるようにし、バルブガイドという有能なガイドを伴った再利用可能な叩き専用のスペシャルポンチとして用いる。
 
 

従来溶接に用いていたバルブ替わるものはレーザーカットしたスチール製の円盤プレート。その外径にざっくり沿うようシートリングをカッターを用い座ぐられている。
 
 

その後、凹んだシートリングにスチールの円盤プレートを落としシートリングとTIG溶接。上部だけ溶接していたのとは違い下方も溶接の熱で縮まる。
 
その後、下にあるバルブを軽く叩いてシートリングを抜き去る。
 
もう、この方法しかない、と思い考案した方法だったが、大成功だった。
 
 

この方法のいい点は、バルブを叩く道具として用い、消費しない。そして確実性と作業時間の短縮。
 
 

関谷社長にもお伝えしましたが理にかなってるとコメント。THX!
 
 

シートリングさえ抜けてしまえばあとは容易。普通はここも肝を冷やすがシリンダーヘッドを雰囲気温度で200℃ができる環境があるのでバーナーで炙ってという状況ではない。焼き嵌めはウチでは容易い。
 
 
 
 

 

シートリング入れ替えて、シートカット
 
 

そしてバキュームでチェック。
 
先ほどのビフォーと同じ場所ですが変わりましたね。
 
 
シートカット終わったけえ、あとはバルブステムシールつけて組んだらエンジンかけてキャブの調整だな!とか思っていたのだが、最大の魔物がここにいた。見た目に違和感があったので早く気づくべきだったのだが。
 
 

見慣れないバルブステムシール付いてるな、とは思っていたが、よく見るとガイドの形状も違う。
 
 
いざ、組み付け開始するときに純正サイズのバルブステムシールが合わない。そして測るとコンマ何ミリか純正サイズよりも大きい。
 
 

なぬ?!?!?!

 
 
 
ここに来て、まさかのなぬ、は、なぬ、じゃない。
 
こら、だぞ。 わし。
 
 
 
この車両が当案件前にお世話になっていたショップさんは知っているのでその件尋ねるも「うちではエンジン開けてないよ、買った店の方じゃない?」とコメントもらうも、(これはよくない兆候だな….)と察し、そこでやめた。
 
 
 

 
 
 

ガイドの内径と高さで寸法を探し当てたが不明なのは対応のステム径。ステム径わからないから博打だなと思いながら取り寄せてみたら、ダイハツのOEMのバルブステムシール品番とわかり。加えステム径6mmだった。撃沈。
 
まぁ…..ダイハツなら6mmだよなぁ…orz
 
 
そこからが悩みまくった。
 
 
この記事見てる人はおそらく同業さんもいらっしゃると思うので、一緒に考えてみてください。
 
 
なんかよくわからないバルブガイドに、ソレらしいバルブステムシールが付いていたんです。
 
 
どう見てもわざにバルブステムシールを作ったようには見えない。
 
 
となると、何かの純正流用。無数にある純正ステムシールの中で探す。
 
 
サイズの表記など必要がないので、ありません。じゃ、手当たり次第に買いまくる?いやいや。
 
 
近所の内燃機屋の親父さんに聞いても「うちじゃバルブステムシール組まんけわからんよ」と
 
昔は問屋の営業がそのあたり詳しかったそうだが、最近はそれもないとか。
 
 
うーむ、どんどん詰んできてる
 
 
…..正解なんてわからないので今度は逆転の発想で考えた。
 
 
そもそも、このバルブガイドはそれなりに分かってる人が作っている。
 
その人が入手しやすいものでイケるようにしてるはず。
 
 

流用をするのなら、入手に困らないものを使いたい。
 
流用するのなら大体日産だね。(車チューニング業界あるある)
 
5/16インチは、ミリに直すと、おおよそ8ミリ。
  
日産で8ミリで、1500ccくらいのエンジン排気量で、ロングセラーのエンジンとは?
 
 

この時、初めてサニトラのバルブステムシールを見ました。抜き取ったのと、よく似てる。
 
 

ステムシールを挿入。バッチリ過ぎね。1回はしくじったが2回目で成功!バルブステムシールを、まさかの推察で探し当てるとはね。マジで肝を冷やした。
 
 

2つ目の難関をクリアし、意気揚々とエンジンを組み上げていく。
 
 

次、キャブチューニングに入る。
 
 

パーシャルでA/F11以下。加速で10を切る、めちゃくちゃリッチ。やばすぎるよね。
 
 

FCRは調整しがいのあるキャブなんで、やっていきます。
 
 

ニードルもすぐに外せる。こういうとこはレーシングキャブ、楽だねぇ。
 
 

信じられないほどスロージェット下げてこの通り。
 
 

いい感じだね
 
 

エンブレでチェック。サニトラのステムシール、効いとるね。
 
 

キャブのチューニングは出来たので試乗に行くも違和感。
 
 

見てみたらツインテックがついてたので、初速からモリモリ走れるようにデータを入れ替えました。
 
 

さ、今回の回は久々の長編でしたね。
 
 
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最近は業者様含め、圧倒的にLINEでのお問い合わせが多いです
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電話ではすぐに対応できないことが多いので電子的なやり取りでお願いしますね
 
Posted by M.Yasuura